昭和基地東側にある見晴らしと呼ばれている一角にそれはあります。
2つならんだ白い大きな箱
実はこれ、動く基地になるんです。
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)、ミサワホーム株式会社、株式会社ミサワホーム総合研究所と国立極地研究所の共同研究に基づいて製作された居住ユニットの極地環境下での機能の実証として私たち61次隊とともにはるばる日本から海を超えて昭和基地にやって来ました。
(出国前に極地研でお披露目会がありましたので、その様子もご覧ください。こちら )
これから実証研究として、昭和基地でこの南極移動基地ユニット(AMSU)の施工性(もこもこの防寒着や手袋をしていても組み立てることができるのか)と組み上がった基地ユニット内の環境を測定することが61次隊の重要なミッションの一つになります ※注。
ソリに載せられたユニット2台を連結させることで一つの大きな居住スペースにするのです。
連結はまず、2つのユニットを並べるところから始まりました。
ただユニットを並べるだけでなく、その後の連結作業のために、
ユニットを並べる雪面をフラットに、そして水平にしなければなりません。
今年は雪がすくないため、整地に難航し、最終的には人海戦術で成し遂げました。
次はいよいよ連結作業の開始です。
まずは、カバーを外すところから始まります。
白く見えていたのは保護のために白いカバーがかけられていたためで、
ユニットの外観はシックな黒で統一されております。
これは、太陽光で発電するとともに、集熱して暖房に使うためです。
次に連結のための位置調整です。
2つのユニットを連結させるためには位置をミリ単位で調整して連結時にぴったり合うように調整をします。
メジャーで長さを測りつつ、チェーンブロックで位置を調整するのですが、雪面だと少し動かすはずが、一気に数cm移動することもあり、気温が低いこともあいまって、非常に神経を使いました。
位置の調整が完了したら、本格的な連結作業に入ります。
このユニットは、極地の環境で組み上げるだけでなく、
工具などの扱いに慣れていない観測系の隊員が動きにくい防寒具を着用した状態でも組み上げられることを前提に設計されています。
今回の連結作業も、設営隊員に交じって観測担当の隊員たちが慣れない工具を片手に2つのユニットの内側のパネルを外して、床面や外壁、天井に取り付け、連結させる作業をしていました。
将来的には月面などの有人拠点への応用を目指している基地ユニットなので、宇宙服を想定して、わざわざ動きにくい防寒手袋を着用して作業をします。でも、ボルトなどがうまくつかめず、気がつくと防寒手袋を外して、薄手の手袋で作業をしてしまうことも……。
昭和基地は極夜期が間近で10時半ごろ日の出、14時ごろ日の入と、日が短い中、また、気温もマイナス20度前後の寒い中、建築担当隊員を中心にみんなで協力して、5月19日に大部分の連結作業が完了しました。作業終了直後、昭和基地は20 m/sを超える強風に襲われていて、ぎりぎり間に合った感じです。
5月21日、連結作業の最後の仕上げを完了して作業にかかわったみんなで記念撮影をしました。
当初は、2020年1月に昭和基地に「しらせ」で輸送した後、2月から連結作業を開始し、環境測定を実施する予定でした。しかし、今年の2月は日照時間が昭和基地での気象観測史上1位を更新するほど好天に恵まれ、昭和基地の雪氷面の融解が進みました。そのため、実証実験を行う場所まで、AMSUを移動させることができずにいました。マイナス20度以下まで冷え込んだ4月末になんとかAMSUを移動させることができ、その後、雪不足で雪面の整地作業に四苦八苦しながらも、太陽が出ている時間が4時間を切った5月19日になんとか2つのユニットの連結施行実証実験を終えることができました。荒天後の21日、連結作業の仕上げを行い、昭和基地内にAMSUが姿を現しました。これから1日中太陽が昇らない極夜期に入りますが、基地ユニット内の環境測定を開始する予定です。
その間、昭和基地内の秘密基地として、活躍してくれそうです。
※注
南極移動基地ユニット(Antarctica Mobile Station Unit; AMSU)の実証研究
南極地域観測隊が南極で実施する観測研究の区分のひとつに「公開利用研究」があります。公開利用研究とは、昭和基地や南極観測船「しらせ」などの南極地域観測事業のプラットフォームを利用して、南極の特色を活かして行う研究です。南極事業の枠に縛られることなく、大学などの研究者から申請され、審査後、採択された研究課題を観測隊が実施します。
第61次隊での公開利用研究のひとつに「極地における建築物の実証研究」があり、南極移動基地ユニット(AMSU)の極地環境下での運用性や機能性を実証することになっています。AMSUは、JAXA、ミサワホーム株式会社、株式会社ミサワホーム総合研究所、国立極地研究所の4者が取り組む共同研究「持続可能な新たな住宅システムの構築」に基づいて製作された居住ユニットで、将来的には、月面などの有人拠点への応用が期待されています。
第61次隊ではAMSUを南極に持ち込み、越冬期間中に、昭和基地内でソリに載せられた2つの居住ユニットを連結して1つの基地ユニットに組み上げ、住環境などの実証実験を行う計画になっています。
(JARE61 鈴木聡、吉井聖人、青山雄一)