昨年設置した係留系回収

1月21日。

海氷の分布や消失する時期は、海底地形や海流経路などで概ね決まってきますが、年によって、同じ時期に同じ場所に行っても、海氷が多かったり少なかったりすることはあります。衛星データによれば、今回予定している最南地点南緯65度の観測点付近は、現時点(1/21)でまだ海氷に覆われている可能性があります。首席の判断で、後に予定していた西側の観測点を先に終わらせて時間を稼ぐことにしました。時期が少しでも遅いほうが、海氷が消失する可能性が高まるからです。衛星から得られる直近の情報によれば、現場の海氷は徐々に減っては来ているようですが、行ってみるまで分かりません。その観測点でも、係留系の回収ほか大きな観測が集中しています。

というわけで、東経110度から外れて107度まで移動し、昨年設置した係留系の回収を行いました。海況にも恵まれスムーズに回収に成功。

係留系の回収作業。ブリッジも甲板も、安全かつスピーディーに作業を進めるべく、数時間、集中力を要する作業となります。
撮影:JARE61 茂木正人(2020年1月21日)

1月22日。

前夜に東経110度、南緯65度の定点付近に到着。幸いにして、氷縁は南に下がっており、レーダーにも氷縁は出ていません。観測に支障は無さそうです。朝8時、時間固定で作業開始です。この日もまずは大物、昨年設置した係留系の回収です。回収された測定器が氷に覆われていなかった期間は設置後の1~2か月とこの1週間くらいで、残りの10か月程はずっと海氷の下にあったことになります。海氷の下では何が起こっていたのか回収された係留系がどんな情報を提供してくれるのか楽しみです。

大きく時間が短縮できたので計画を少々前倒して、翌日に予定していた海氷の採取を行うことになりました。氷縁まで、定点からさらに南に10マイルほどシフト。間もなくブリッジから双眼鏡で氷縁がみえてきました。文字通り、海氷域の縁辺部です。海鷹丸の前方に立ちはだかります。

ブリッジで氷縁の状況を目視で確認、針路を検討する海鷹丸船長
撮影:JARE61 茂木正人(2020年1月22日)

ここで2時間ばかり海氷の採取を行いました。海氷の中には、珪藻類や有孔虫、カイアシ類などの様々な微小生物が高密度で生息しています。このよう海氷性微小生物群集の存在は以前から知られていますが、春から夏にかけて、海氷が融ける過程でどのくらいの量の微小生物が海水中に放出され、どこへ行くのかはよく分かっていません。海氷中の生物群集の密度が著しく高いこと、生産される(=融解する)海氷の量が膨大であることを考えると、この海氷中の生物群集の役割は南極海では馬鹿にできません。海氷も我々の重要な研究テーマとなっています。

 

JARE61 茂木正人)