2018年12月20日、昭和基地付近を航行中の「しらせ」から世界に向けて、大気重力波の国際共同観測キャンペーン開始宣言を発信しました!
開始宣言のメールを送信したICSOM代表者を務める佐藤薫隊員(左)と、佐藤隊員とともにPANSYでの観測を担当する南原優一隊員(右)
北極では、日々の気温変化が緩やかな成層圏(高度約10~50km付近)において、突然気温が上昇する成層圏突然昇温現象が3年に2度の割合で起こっています。
この現象では、1日で数十度も成層圏の気温が上がり、その現象がいったん生じると、影響は赤道を超え、遥か南極まで及ぶことが知られています。これは、大気重力波と呼ばれる小規模な大気波動のグローバルな変化によるものとさていますが、観測的証拠は得られていません。
この現象がいつ起こるかは分からないのですが、世界の気象機関の成層圏予報から5日前には予測できるとされています。
そこで、北極成層圏突然昇温が起こる可能性が高くなった場合に、昇温の3日前から北極から南極まで世界に点在する大型大気レーダーや流星レーダー、MFレーダー、光学観測器等からなる地上リモートセンシング観測のネットワークによる南北両半球の大気重力波の変化を一斉に観測し(国際共同観測キャンペーン。ICSOM:Interhemispheric Coupling Study by Observations and Modeling)、大気大循環の定量的な理解に必要な観測データを取得することにしています。中でも、昭和基地の「PANSY(Program of the Antarctic Syowa MST/IS Radar)」をはじめとする大型大気レーダーは、大気重力波の運動量輸送を直接観測できるので、このグローバル観測網の中で最も重要な測器です。
昭和基地に設置されているPANSYのアンテナ群(2015年1月撮影)
ICSOMには8か国30名以上の研究者が参加しており、昨年までに3回実施されました。しかし、得られたデータから重力波振幅のグローバルな変化が見られたと思われる場合とみられなかった場合があり、事例を積み重ねる必要があることが分かりました。
今シーズンのICSOMは2019年1月に予定されていましたが、2018年12月19日の時点で12月25日に突然昇温イベントが開始するという予想になりました。そこで、12月20日の昭和基地時間10時41分(日本時間16時41分)、ICSOMの代表者である佐藤薫隊員(東京大学教授)が、昭和基地沖を航行中であった「しらせ」から各国の観測レーダーへ向けて観測開始宣言を行いました。観測開始は12月23日、終了については暫定的に1月10日としました。
注:大気重力波とは、大気中の浮力を復元力とする波動のこと。水平波長は温帯低気圧等と比べて大変小さく約10km~約2000kmである。
PANSYでの観測を担当する佐藤隊員(右中)、南原隊員(右)、虫明一彦隊員(左)。左中は気象担当の藤田建隊員。