南極で大気微量気体を測る

今回は、観測隊のミッションのうち、地球の大気の変動を探る観測を紹介します。私たち人間活動の影響により、大気中の温室効果ガス1が増加したことで、地球温暖化が起こり、その影響により世界各所で深刻な環境問題が現れています。この問題に取り組むには、まずは地球全体で大気中の温室効果ガスがどのように変動しているか正確に把握することが重要です。南極域は人間活動が活発な北半球の中高緯度地域から離れているため、その影響を受けづらく、地球環境そのものの変化を捉えるのに適した場所です。そのため、昭和基地では温室効果ガスをはじめ、大気中に含まれる微量な気体の濃度変化を観測し、観測データを蓄積することでそれらの長期変動を把握することを目指しています。

大気微量気体の観測は、基地生活の中心である管理棟から東側にある観測棟で行っています。観測棟の風上側に建てられたタワーの上部から大気試料を取り入れ、チューブを通って観測棟内の計器類に引き込み濃度を計測、現在は温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)に加え、温室効果ガスに関連する気体として一酸化炭素(CO)、酸素(O2)を観測しています。

観測棟と大気を取り込むタワー
撮影:JARE64 白野亜実(2023年6月1日)

大気微量気体の観測は、モニタリング観測部門の隊員が担当しています。取材に行ったこの日も、正しく観測データを取得できているか、観測機器に異常がないか、観測機器の消耗品の補充が必要ないかなど、観測に係る多くの項目を確認していました。

一酸化炭素(CO)、亜酸化窒素(N2O)の濃度観測装置の稼働状況の確認を行う
撮影:JARE64 白野亜実(2023年6月2日)

二酸化炭素(CO2)連続観測装置の稼働状況の確認を行う
撮影:JARE64 白野亜実(2023年6月2日)

昭和基地では計測することのできない項目に関しては、国内に持ち帰って測定しています。例えばCO2の炭素同位体比※2は、昭和基地で採取した大気からCO2を抽出し、専用のガラス管に封入し、日本に持ち帰って計測します。また、現在の昭和基地の大気を長期保存することを目的とした採取も行っています。これは現時点の技術では十分な精度で計測が難しい成分や、将来計測が必要となった成分が現れた場合に備え、過去に遡って分析することができるよう集めているもので、まるで未来へのタイムカプセルのようです。

米国大気海洋局で分析される大気試料も昭和基地で採取している
撮影:JARE64 白野亜実(2023年6月2日)

本観測を担当する瓢子隊員に、普段どのような想いで仕事を進めているか話を聞きました。「大気微量気体の観測は、昭和基地だけの取組みではなく、ノルウェー・ニーオルスンにある北極の基地でも観測を行っていますし、日本国内の大学や研究機関、米国大気海洋局と協力して大気試料採取を進めています。容易にアクセスできない昭和基地で観測を行うことで、国際的にも協力できることにやりがいを感じています。」と話してくれました。

南極・昭和基地(青)および北極・ニーオルスン(赤)で観測された大気中CO2の変動
図:国立極地研究所および東北大学

観測を長期的に継続することにより、大気中の微量気体や関連する成分の数十年にわたる変動を把握することができます。昭和基地では1984年から二酸化炭素(CO2)の濃度観測を行っていて、来年で40年になります。観測隊の先輩方から引き継いだミッションを正しく遂行し、絶やすことなく次の隊につないでいきたいと改めて思いました。

JARE64 白野亜実)

※1 温室効果ガス…大気を構成する成分のうち、温室効果をもたらす気体。主に二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、フロン類がある。
※2 炭素同位体比…自然界に存在する炭素は質量数が異なるもの(同位体)が存在し、その存在比を炭素同位体比(ここでは質量数12と13の炭素の比)という。CO2濃度の変化とCO2の炭素同位体比の変化を一緒に調べることで、CO2濃度変化の背景や地球表層でどれくらいの量の炭素が巡っているか知ることができる。