昭和基地発祥の地〜1次隊上陸点訪問 

5月7日(土)、野外行動安全訓練(その2)の1回目が実施され、隊員・同行者計9名が参加しました。野外行動安全訓練(その1)はこちら。この日のコースは、1次隊が上陸式を執り行った地点を目指すもの。実は、1次隊が最初に「昭和基地」と宣言したのは現在基地主要部がある東オングル島の北岸ではなく、もう少し南の場所(下の行動図を参照)でした。

GPSで記録したこの日の軌跡。国土地理院の地図データを使用して作成。作成:JARE63 泉秀和(2022年5月7日)

11:30過ぎに昭和基地主要部を出発した一行は、30分ほどで、「中の瀬戸」へ到着。中の瀬戸は東オングル島と西オングル島を隔てる幅数十メートルの狭い海峡で、1次隊の越冬中に中野医師によって発見されています。この発見により、それまで一つであると思われていたオングル島が、実は東西に分かれていることが明らかになりました。「中の瀬戸」という地名は、発見者である中野ドクターの名にちなんでいるとも言われています。海氷には潮の満ち引きの影響でクラック(割れ目)があるため、先頭を行く隊員がゾンデ棒で安全を確認しなから中の瀬戸を渡りました。

中の瀬戸を渡る様子。撮影:JARE63 馬場健太郎(2022年5月7日)

中の瀬戸を渡り終えてからは、途中、巨大な迷子石を見たり、凍結した大池の水面を歩いたり、1次隊から3次隊までの総隊長を務めた永田武氏を記念したケルンなどを参拝したりしながら、約1時間かけて1次隊の上陸式地点に到着しました。現在、この地点には48次隊によって建てられた「第1次南極地域観測隊上陸式地点」の看板があります。

途中には大きな迷子岩も見られました。撮影:JARE63 馬場健太郎(2022年5月7日)
水面が凍結した大池の様子。13時すこし前だが、極夜期に近づき太陽は夕方のように低い位置にある。撮影:JARE63 馬場健太郎(2022年5月7日)
48次隊により建立された看板。撮影:JARE63 溝口玄真(2022年5月7日)

永田武隊長率いる1次隊は、1957129日に現在の西オングル島東部で上陸式を行って「昭和基地」を宣言しました。事前の偵察段階までここは「N基地」と呼ばれ、基地建屋を建築する候補地の一つとされてたそうです。一方、現在の基地主要部がある場所は、偵察名では「W基地」と呼ばれていました。弁天島沖に停泊している砕氷船「宗谷」から物資を輸送するルートを考慮して、このN基地ではなく、距離をより短縮できるW基地のほうが最終的に建設地として決定されて現在に至っています。なお、上陸当時の1次隊はこれらの両候補地を含むオングル諸島一帯を「昭和基地」としていたようです。

上陸式の模様は写真や16ミリフィルム等に収められ、「南極六年史」(昭和38年文部省発行)などの公文書にも写真が残されています。後に国土地理院から発行された地図には、上陸式の地点にちなんだ「昭和平」の地名が記されることになりましたが、その文字は上陸地点からずれて大池の北東に記載されてしまっています。ですからその地点を調べても当時の写真や映像に残されている風景に合致しないことから、記念すべき上陸式を執り行ったポイントはいつしか分からなくなっていたのでした。

1次隊上陸式の様子(「南極六年史: 南極地域観測事業報告書」(昭和38年3月30日文部省発行))

そこで、1次隊の上陸50周年を記念して、上陸式が行われた地点を突き止めようと、47次隊で越冬中だった現63次澤柿越冬隊長らが、2006年の5月に昭和平付近を捜索しましたが発見には至らず、引き続いて48次越冬隊が20074月に2度にわたり捜索しましたが、それでも発見には至りませんでした。
48次隊にも参加していた中澤63次越冬隊員によると、同年429日の夕方、上陸地点を同定するために文部省製作・1次隊の朝比奈菊雄隊員編集の記録映画「ペンギンの国」を有志がサロンで見ていたところ、そこに小さな島が映っていることに中澤隊員が気づいたとのことです。当時、中澤隊員はオングル島の周回ルートを作って、ブリザード後にルート上に積もった雪をサンプリングしており、いつもお弁当を食べることにしていた、地図では名もなき島(同定作業中は「弁当島」と仮称していた)がまさにその映像に映っている島だったのです。
48次隊は、これらの情報を基に改めて同年56日に捜索を行い、ついに1次隊が上陸式を行った際に日章旗を立てたと思われる岩を発見しました。そして、1週間後の12日に改めて岩の掘り出しとGPSを用いて精密な位置の測定を行い、上陸式地点を同定したのです。また、このとき、岩の近くから1次隊が国旗掲揚に用いたと思われる竿も発見されました。

我々63次越冬隊の野外行動演習一行は、48次隊が建立した看板前で記念写真などを撮った後、ポルホルメン西側の海氷上を渡って東オングル島へ再上陸し、みどり池の脇を通って15:00ごろ昭和基地へ帰還しました。

1次隊上陸式地点での記念写真。オングル海峡をはさんで背景には南極大陸が見える。撮影:JARE63(2022年5月7日)

この日は、青空が広がり、平均風速は1.9m/sと風も穏やかで絶好の野外行動日和となりましたが、平均気温はマイナス20.1度と寒い一日でした。
また、1次隊が国旗掲揚を行った岩や竿は完全に雪に埋もれており、あいにくスコップを持参していなかったため、雪から掘り出すことはできませんでした。野外行動安全訓練(その2)は天候を見ながら4回実施する予定のため、2回目以降の参加者には岩の掘り出しに挑戦してもらいたいと思います。

この日はとても寒かったです。撮影:JARE63 溝口玄真(2022年5月7日)

(JARE63 馬場健太郎)