2022.03.04
カテゴリ: JARE63
トッテン氷河沖海洋観測(係留系の揚収と設置)
こんにちは、教員派遣の武善です。前回の記事では、ケープダンレーで行われた係留系の捜索を取り上げました。観測隊は現在、更に東に移動し、トッテン氷河沖で海洋観測を続けています。場所はまだ南極海ですが、経度自体はかなり日本に近づいていて、時差も1時間にまで縮みました(ちなみに、昭和基地と日本の時差は6時間でした)。
トッテン氷河沖でも様々な海洋観測が行われていますが、前回のブログと関連するところで、係留系の揚収と設置の様子をお伝えしようと思います。
トッテン氷河沖には、第61次南極地域観測隊が海底に設置した係留系がありました。前回同様、船上局からリリーサーに命令を送ったところ、今回は反応が返ってきました。「浮上予想位置、右xx°、距離xxxx」といった放送を聞きながら、目視で係留系を探します。当日は私も、カメラのズームレンズを通して、周囲を探し回りました。写真は係留系を発見し、船を近づけている時のものです。係留系がどこにあるか、わかるでしょうか。
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答えは、写真中央右寄りの位置です。
赤い部分が目立ちますが、黄色い係留系の一部も写真中央左寄りに見えます。
発見された係留系は、クレーンやウィンチなどを使って揚収します。引き上げられた係留系には、2019の文字が見えます。係留系が2年ぶりに海上へ顔を出した瞬間でした。
このトッテン氷河沖の係留系揚収は、極めて重要な意味を持つものです。
教員派遣ブログ南極授業(武善)補講①「気象」では、「大気は地球全体で循環しており、日本の天気予報を立てる際にも、地球全体のことを考える必要がある」と述べました。地球表面の70%を覆う海洋水もまた、地球全体で循環をしています。海洋水は熱を運ぶ役割を持つことから「地球の動脈」とも言われ、気候にも大きく影響を与えています。
この動脈を支える海洋水のポンプ、いわば「地球の心臓」が南極です。海洋水は南極海で冷やされ、世界中へと送り出されていきます。そして今回観測しているトッテン氷河は、南極の中でも、この循環を作り出す基点となっている極めて重要な場所です。トッテン氷河の水の流れが明らかになることは、地球規模の気候変動メカニズムの解明にも繋がっていきます。
水の流れは当然、時間的な変化を持っています。ここに、「係留系」の価値が出てきます。
教員派遣ブログでは、海洋観測の手法として今まで2つの観測装置を紹介してきました。南極授業(武善)補講②「人工衛星」で紹介した「Argoフロート」と昭和基地沖接岸で紹介した「CTD」です。この2つの観測装置は、海洋の様相を空間的に明らかにしますが、計測結果は瞬間的なもので、時間的な変化はわかりません。
対して、「係留系」は同一の場所に長期間設置される観測装置です。今回揚収された係留系には、流向流速計が取り付けられており、測定結果から年間を通じた流量の変化を推定することができます。
しらせ船内では早速、計測結果の分析が進められています。
翌日、2月28日には新たな係留系の設置も行われました。今回設置した係留系は、第64次南極地域観測隊での揚収が予定されています。しらせが南極と日本を往復するのは年に1度だけですが、その間も、海洋内では様々な測器が絶え間なく観測を続けています。1年後、無事に揚収されたニュースを耳にする日を、楽しみにしていたいと思います。
また、トッテン氷河沖では、多くの自然に触れることができます。晴れた日の夜には、満点の星空が広がっていました。今回は、天の川もはっきりと見ることができました。
星空を眺めている間には、うっすらとですが、オーロラも出てきました。
今回のブログを執筆するにあたり、海洋観測の方々には観測の合間を縫って、様々なことを教えてもらいました。その中でも、海洋循環のメカニズムは、とても興味深く感じた話題です。
私の専門教科は情報科で、日頃から様々な情報技術を扱います。一見すると、情報技術は「自然」と対局にある存在のように思えるかもしれません。しかし根本には、様々なシステムのメカニズムへの興味・関心があり、対象が「地球」となっても、それは変わらないのだと思いました。
今回のブログでは、過去の教員派遣ブログから幾つかリンクを張りましたが、「地球」というシステムで考えた時に、断片的な記載内容が全て繋がってくることもまた、面白い点の1つだと思います。
(JARE63 武善紀之)