2022.02.18
カテゴリ: JARE63
復路の海洋観測(ケープダンレー)
こんにちは、教員派遣の武善です。南極授業の振り返り記事をずっと続けてきましたが、今回は復路の海洋観測について紹介します。
昭和基地での活動を終えた観測隊は、真っ直ぐに日本を目指すわけではありません。観測隊には「海洋」を研究対象とする隊員もいて、この復路が観測のメインとなる隊員もいます。
2月17日には、ケープダンレーで係留系の捜索が行われました。係留系とは、海の一置点に長期設置する、様々な測器のついた観測装置のことです。今回の回収対象は、第60次南極地域観測隊が海底に設置したものでした。係留系に付随しているリリーサーに対して命令を送り、アンカーを切り離すことで、海上に浮かび上がった係留系を回収します。
しかし海底にある係留系は、目視することができません。どのようにその位置を特定したり、命令を送ったりするのでしょうか。
南極授業では、電波を用いて大気の様相を調べるPANSYレーダーを紹介しました。通信においても大活躍だった電波ですが、実は水の中が苦手です。水中において、電波は急速に減衰し、ほんの短い距離しか伝わりません。海洋観測では、電波ではなく「音波」が活躍しています。
写真は、切り離し装置の船上局を操作する渡辺隊員と村上隊員です。二人の前には長いケーブルがあります。
このケーブルの先には、トランスデューサー(送受波器)がそれぞれ接続されています。この機器を海中に沈めることで、水中に音波を発信し、係留ブイと交信をはかるのです。
今回、海中に送信した音波信号は2種類ありました。1つが「イネーブル信号」で、休眠中のリリーサーを起こす信号です。この信号の送信時には、ジジジ、という音が周りに響きます。メガネ等に使う超音波洗浄機と似た音に感じました。もう1つはリリーサーに応答信号を要請する「確認信号(ピン)」です。コンピュータを扱う方や、情報の授業を学んだ高校生は、ピンと来るのではないでしょうか。インターネットで通信する際、相手方との疎通確認のために、「ping xxx.xxx.xxx.xxx」を打つことがあります。海洋調査でも、同じように音波のピンが打たれていたのです。応答信号の到達時間から、リリーサーまでの距離を推定することもできます。
今回の観測では、係留系の揚収までには至りませんでしたが、今後も日本に帰るまで、様々な海洋観測が行われ続けます。
また、観測中に、ケープダンレーでは様々な生き物の姿を見ることができました。アデリーペンギンとも再会できましたし、特に多く見られたのがアザラシです。ペンギン達と同じ氷の上で寝そべるアザラシの姿を、たくさん見ることができました。
生き物だけでなく、大きな氷山もあちこちに点在しています。
拡大してみると、横方向にたくさんの線が入っていることがわかります。
引き続き、南極の自然の姿とともに、観測隊の活動を紹介していくことができればと思います。
(JARE63 武善紀之)