教員南極派遣プログラムBLOG

南極授業(武善)補講①「気象」

こんにちは、教員派遣の武善です。前回のブログで述べた通り、授業内で扱ったコンテンツについて、複数回に分けて、関連事項を取り上げていきたいと思います。第1回は、「気象」です。

22日の授業では、人工衛星による通信や観測が進歩した今、「わざわざ南極に行く意味」として、62次越冬隊長阿保敏広さん(気象庁)からお話をいただきました。話の中心は、南極で行われる「ラジオゾンデによる高層気象観測」です。

リモートセンシングデータとトゥルースデータの関係(授業スライド)
作成:JARE63 武善紀之

 

授業では時間の制約上、人工衛星による観測結果(リモートセンシングデータ)と、直接大気の中を調べる観測結果(トゥルースデータ)の比較によって、より精度の高い観測が可能になる、という話のみを取り上げていましたが、この話には続きがあります。

それは、「南極と日本の天気の繋がり」です。実は、南極の気象は、我々が普段目にしている日々の天気予報にも繋がっているのです。
私たちは普段、「千葉県市川市」のように一定の地域に区切られた天気予報を見ていますが、その大元には「日本」だけでなく、「地球全体のモデル(全球モデル)」があります。大気は地球全体で循環しており、日本の天気予報を立てる際にも、地球全体のことを考える必要があるのです。
この全球モデルを用いたシミュレーションは、気象庁の保有するスーパーコンピュータNAPSを用いて行われます。普段目にする「千葉県市川市の天気予報」は、全球モデルでシミュレーションした結果の一部を切り出したものなのです。この話はもちろん、千葉県市川市に限った話ではなく、全国どの場所にも当てはまります。
そして、このシミュレーションの材料には、「気象衛星ひまわり」の観測データと共に、日本各地や南極で放球されるラジオゾンデの観測データが使われています。確かに、南極と日本が繋がっていることを認識できる、1つの事例ではないでしょうか。

南極の気象と日々の天気予報の関係(未使用授業スライド)
作成:JARE63 武善紀之

 

また、日本だけに限らず、ラジオゾンデによる高層気象観測は世界中で行われています。それらの結果は国際的な気象ネットワークであるGTSに集約され、世界各国の天気予報や研究に活用されていきます。
スーパープレッシャー気球観測においては、南極の気象データを活用することで、気球の動きの予測シミュレーションが行われていました。左がシミュレーションの結果、右が実際の気球の動きの軌跡です。よく当てはまっていることがわかると思います。

シミュレーションと実際の動きの一部(未使用授業スライド)
作成:JARE63 冨川喜弘

 

気象に関しては、阿保隊長だけでなく、基本観測棟で働く気象隊員からもさまざまな話を教えてもらいました。後半は、「ラジオゾンデによる観測の仕組み」を1つ紹介します。
授業で紹介したラジオゾンデには、気温計・湿度計は取り付けられていますが、実は、風速計や気圧計は取り付けられていません。

ラジオゾンデ
撮影:JARE63 武善紀之(2022年2月7日)

 

しかし、観測されるデータを見ると、「風速」や「風向」も測定されています。どのように、これらの値を測定しているのでしょうか。

ラジオゾンデによる観測のリアルタイムモニタ(授業内映像より)

 

ここで活躍しているのは、GPSでした。ラジオゾンデにはGPSが取り付けられており、気球の位置情報を常時記録しています。風向や風速は、このGPSによって測定される位置情報の変化量から導出されていたのです。人の手によるラジオゾンデ観測も、まさに衛星との協調の中で達成されています。同様の仕組みは、スーパープレッシャー気球でも使用されていました。

ラジオゾンデの電波の周波数は404MHz帯で、地上へと送られます。トランシーバの周波数を合わせると、放球直前から、ラジオゾンデの音を聞くこともできました。私が小学生の頃、お世話になったダイヤルアップ回線の音に似ていました。

ラジオゾンデの音をトランシーバで聞く
撮影:JARE63 武善紀之(2022年1月3日)

 

「気象」は、どんな話を聞いていても随所に情報科らしい側面があり、とても面白かったです。日本に戻ったら、あちこちに設置されている気象観測装置を見て回りたいと思います。

(JARE63 武善紀之)

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