教員南極派遣プログラムBLOG

南極授業(武善)補講③「重力とTAG」

こんにちは、教員派遣の武善です。復路のブログでは、授業内で扱ったコンテンツについて、複数回に分けて、関連事項を取り上げていきます。第1回目は「気象」第2回目は「人工衛星」について取り上げました。第3回目は「重力とTAG」について取り上げたいと思います。

 南極授業で取り上げた通り、重力(=地球がモノを引っ張る力)は、地球上の様々な場所で異なる値を取ります。

重力は場所によって違う!(1月29日 授業スライド)
作成:JARE63 武善紀之)

 

高校生が物理の問題を解く際には、「ただし、重力加速度は9.8m/s^2とする」との文言を何度も目にしますが、この値はあくまでおおまかな値です。授業の中では、日本(羽田)と南極(昭和基地)の値を紹介しました。小数点以下第2位で四捨五入すれば同じ9.8になりますが、確かに異なっていることがわかると思います。「南極では体重が重くなる」、という話がありますが、同一の体重計で体重を測定した場合に、この僅かな違いの影響を受けて、体重に増加があるように見えるのです。南極に来ると太るわけではありません。また、重力の小さい赤道では体重が減少するように見えますが、もちろんこれも赤道付近で痩せるわけではありません。

日本と南極の重力加速度(YouTube Live画面の一部)

 

スライド中の体重の理論値については、科学知識のデータブック「理科年表」から計算をしました。「種々の緯度に対する重力の正規値」として、理科年表には以下の値(重力式1980によるもの)が掲載されています。

緯度0度(赤道) 978.032677Gal
緯度39度(日本) 980.081061Gal
緯度70度(南極) 982.609620Gal

 この値に基づいて南極/日本の比を計算すると、約1.003となります。すなわち1kgあたり3g60kgの体重であれば150g、体重の表示が増加します。自分の体重がどれくらいになるか、計算してみると面白いと思います。

また、「理科年表」そのものも、実は南極観測隊と深い関わりのある存在です。
理科年表は南極観測隊の必需品として、毎年観測船に持ち込まれています。毎年11月が発行月となっているのも、観測船の出港日に合わせるためだそうです。詳細は、理科年表のオフィシャルサイトをご覧ください。
実際、南極授業のスライドを作る際、船の中で重宝したのが、この「理科年表」でした。しらせ船内では日本と同じようにはインターネットが使えないため、オフラインでも使えるデータブックは大変役に立つ情報源です。
2021年版では南極観測隊を舞台としたアニメ「宇宙よりも遠い場所」とコラボが行われていました。重力値だけでなく、理科年表には天文・気象・物理・化学と様々なジャンルのデータが掲載されています。読み物としての面白さもあるので、機会があればページを捲ってみると良いかもしれません。

理科年表
撮影:JARE63 武善紀之(2022年2月14日)

 

後半は、新谷隊員が開発した重力計「TAGTransportable Absolute Gravimeter)」について紹介します。
TAGは、「レーザー装置」「計測装置」「収録装置」の大まかに3つの部分で構成されており、南極授業では「計測装置」の実演を行っていただきました。

落下中の様子(YouTube Live画面の一部)

 

計測装置内部は本来、真空状態が保たれている部分です。今回は、南極授業のために特別に中を開けていただきました(授業ごとに、毎回真空を作り直しています)。なかなか見ることのできない、貴重な映像です。
南極授業では1/292/2共に「モノづくり」の視点でTAGを取り上げましたが、実はもう1つのテーマであった「通信」とも面白い関わりのある存在です。
TAGの特徴は、屋外でも測定のできるコンパクトさと、南極のような低温下でも動作するところにあります。低温下において課題となるのは「レーザー装置」で、低温下ではレーザーがうまく動作しません。この課題を解決するために、TAGはレーザー装置と計測装置を分離した構成を取っています。装置間を光ファイバで中継し、常温下に設置するのはレーザー装置のみとすることで、屋外の様々な場面で計測が出来る仕組みを取っているのです。
写真は野外での観測の様子です。テントの中には計測装置、小屋(写真右奥の白い建物)の中には「レーザー装置」と「収録装置」が設置されています。

光ファイバーで繋がれたテントと小屋
撮影:JARE63 新谷昌人(2022年1月13日)
小屋に置かれたレーザー装置と収録装置
撮影:JARE63 新谷昌人(2022年1月13日)
テント内に置かれた計測装置
撮影:JARE63 新谷昌人(2022年1月13日)

 

テントと小屋を中継している「光ファイバ」は、離れた場所に光を伝える伝送路で、現代のインターネットの仕組みに欠かせない存在です。インターネットの発達と共に光ファイバに関する技術開発が急速に進んだ結果、今回の重力計の構成にも、光ファイバが活用できるようになったそうです。光ファイバは既に世界中、多くの場所に敷設されており、将来的には現存する資源を活用して、様々な場所で重力を測定することも可能とのことです。
ある分野の技術が発達することにより、別の分野の技術も発達していく。技術と技術のコラボレーションを、ここに見ることができます。

(JARE63 武善紀之)

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